「――っ…ふぅ……」
持っていたシャーペンを机の上に置き、両手を組んで大きく伸びをする。
首を左右に揺らして硬くなった筋肉をほぐしながら、今しがた書き上げた次の校内新聞の原稿を間違いが無いか目で追った。
「んー……たぶん大丈夫、か、な。うん」
机の上に散らばった消しゴムのカスを一箇所に集め、転がっているシャーペンと消しゴムを机の端に並べた。
書き上げた原稿用紙をまとめ、その端をホチキスで止める。
椅子から立ち上がって部室のドアの前で一度止まり、もう一度原稿を確認すればドアを開け放った。
「…あっつー」
一歩出れば途端に熱せられた空気が全身を撫でる様にまとわり付く。
しかし職員室でこの原稿にゴーサインを貰わないことには先に進めないのである。
一瞬、他の記事を書いてまとめて夕方に出そうかとも考えたが、書くための資料の大半は他の部員が持っていることを思い出せば諦めざるを得なかった。
夏休みともなれば、当然各教室の喧騒が廊下まで聞こえてくるわけも無く、窓から教室覗いても、そこには黙々と受験勉強に励む三年生ばかり。
ばかりといっても、わざわざ暑い思いをしてまで学校まで通うなら、自宅か近所の図書館ででも勉強したほうがいいと思うのか、それとも受験勉強なんて秋になってからなんて思ってる生徒が多いのか、その数はとてもまばらだった。
校内はとても静かで、時折上の階から吹奏楽部の発声練習が聞こえたりするものの、その声も暑さのせいか覇気がない。
部室から少し歩いただけだというのに、体は火照り、肌からはじんわりと汗が滲み出てきた。
背中を伝う汗の気持ち悪さに思わず背筋を伸ばしてしまえば、滲み出た汗は背中を伝う速度を増し、より気持ち悪さに拍車をかける結果となってしまった。
「うっわ、サイアク……」
原稿を持っていない手でワイシャツの首元を前後に動かし風を送るものの気休めにしかならなかった。
一刻でも早く職員室にたどり着こうと足を速めるも、金属に硬いものが当たるような音が耳に入れば、速度を落として立ち止まり窓の外へと視線を移した。
「――……」
窓の鍵に手を掛けて下に降ろせば、締め切られた窓を開け放つ。そうすれば、金属音はより大きくなって耳に届いた。
さんさんと厳しく照り付ける直射日光を浴びて、真っ白いユニフォームは土で汚れ、ダイヤモンドを駆けるその体からは汗を飛び散らせ、返球する際に振り落ちた帽子を軽く叩いて額の汗を袖で拭いながら深く被り、大きく振りかぶった構えから体全体を使って球が放られる。
そんな高校球児たちの様子を、ただ黙って眺める。
無意識のうちに左手が右肩を強く握りしめていたのに気付いたのは、その額から伝った汗が目に入って沁みる痛みに思わず顔を歪めてからだった。
はっと我に返り、眼鏡を外して額の汗を袖で拭い取ってから、開け放っていた窓を閉めゆっくりと歩みを職員室へと進めていった。