ガサガサ―――
駆ける、駆ける。
草原を。森を。林を。荒野を。
「―――ッ…ハッ…ハッ……ッ…!」
苦しい。元々体力とは無縁なんだ、俺は。
朦朧とする意識の中、ただそれだけを思って苦笑する。
あぁ、まだ大丈夫だ。苦笑する元気がある。
―――今ならまだ、後戻りができる。
後戻り? 戻って何をするというのだ。
桜冬は―――俺の帰るところは、もう…ない。
「だ…ったら! もう、この世に未練ッ、などぉっ! ないっ!!」
強く、強く歯を食いしばる。
こんな感情、初めてかもしれない。
母は、小雪は…何も無関係な者にまで、"アイツ"は手を出した。
兄を、家族を。奪われた。
なら――俺も、奪う側になってやる。
「おいっ! いたぞッ!!」
「殺せ! 許可は貰ってある!!」
"アイツ"の国の者か。
馬鹿な奴等だ。桜冬の名を聞いて、それでも襲い掛かってくるなんて。
「―――死ね」
驚くほど、今までの自分とは違う性質の声が出たのだとわかった。
あぁ、もう。俺はもう、手遅れだ。
手を、相手のほうへ差し出す。魔力をつぎ込む。溜めた魔力を放つ。
これでもう、あっけなく人が死んだ。でも、これは。大量殺戮の前座でしかないんだ。
気付けば、"アイツ"の国はもう50メートルもない先にある。
表門には、数百という駒が溢れている。
手。魔力。放つ。
先ほどよりも多くの魔力を使って、術を練り上げた。
そのまま、放つ。
門は開き、アカがそこら中に広がった。
「―――……」
何か、自分の口が動いた気がする。
けれど、どうでもよかった。
「―――ッ!!?」
痛い。肩に何かが刺さっていた。……矢?
気付いた時には、上空には無数の矢が待っていた。
あぁ、もうここで構わない。
どうせ死ぬのだ。
俺は其の場に立ち止まる。
無数の矢の雨を前にしながら。
俺は。
全ての魔力と。
命を。
術へと込めて。
放った。
俺の体を矢が貫くのと、視界が真っ白になるのは、ほぼ同じ時だった―――